知っていると役に立つ心理学用語「生物-心理-社会モデル」について一般の方向けにわかりやすく説明していきます。

生物-心理-社会モデルとは?


生物-心理-社会モデル(bio-psycho-social model)は、精神科医ジョージ・エンゲル(George Engel)が1977年の論文で提唱したところから発展した人間を総合的・多元的にみる新しい医学観です。

人間の心理的問題や身体的な症状・病気は、生物的要因(医学的要因)、心理的要因、社会的要因がそれぞれ分離しているのではなく、多くの場合、相互に影響し合った複合的な問題からなります

このモデルでは、医学的なアプローチ、心理的アプローチ、社会支援はそれらの状況に合わせて最適に治療・支援・介入が行われることが理想とされています。

例えば、医学的アプローチだけで行っていた治療以外に心理的支援や社会支援(ソーシャルサポート)があることによって治療やその方の人生がより良い方向へ進む可能性が高くなります。

心理的な症状を相談されるケースで、心理アプローチのみ行っていたところ、病院の検査を行うことによって問題が発覚し、その身体的な問題によって心理的な症状を生んでいたことがわかった、などのケースも考えられます。

このように生物-心理-社会による影響によって生まれた問題や病気に対して連携や協同を図って総合的に治療・支援を行うことが大切です。

下記画像は「生物・心理・社会モデルによるレジリエンスの理解と学校教育への適用」からの引用です。

生物-心理-社会モデル

階層からみるとわかる複雑なシステム


総合的・多元的にとらえる生物-心理-社会モデルを階層からみていくと自分は複雑で大小さまざまなシステムの中で生きていることがわかりやすいかもしれません。

生物圏(社会)
⇔社会・国家(社会)
 ⇔文化・下位文化(社会)
  ⇔地域(社会)
   ⇔家族(社会)
    ⇔二者関係(社会)
     ⇔個人(経験・行動)(社会)(心理)
      ⇔神経系(生物)(心理)
       ⇔臓器・器官(生物)
        ⇔細胞(生物)
         ⇔細胞器官(生物)
          ⇔分子(生物)
           ⇔原子(生物)
            ⇔原子以下の粒子(生物)

それぞれの役割


生物-心理-社会モデルについてそれぞれの役割について説明していきます。

生物的要因として、脳、神経、遺伝(遺伝的疾患)、細胞、発達特性、身体症状、体質などがどのように症状や問題として出現しているか考える。

医師や看護師など医療従事者

→薬物療法、手術、リハビリなどを行う

心理的要因として、感情、認知、信念、ストレス、知能、パーソナリティ、対処行動、防衛反応(適応・防衛機制)、無意識などがどのように症状や問題として出現しているか考える。

精神科医・臨床心理士・公認心理師・カウンセラーなど

→カウンセリング、心理療法、心理教育などを行う

社会的要因として、家族、学校、職場、その他コミュニティなどの関係性や状況、福祉、経済的状況、ソーシャルサポート、その土地の風土や慣習などがどのように症状や問題として出現しているか考える。

家族、学校の先生、スクールカウンセラー、職場の担当者、産業カウンセラー、社会福祉士、地域の公的な支援担当者など

→学校への適切な介入と支援、職場への適切な介入と支援、社会復帰の訓練、各種手続きのサポート、公的機関の紹介、社会福祉的アプローチなどを行う。

どのように理解して、どう活かせばいいのか?


チーム医療という言葉も出てきていますようにそれぞれの職種や担当者が連携と共同を行いながら最適な治療や支援を行っていくことがこれから求められています。

では一般の方(当人)としてどのように理解して、どう活かすか?というところについて提案していきます。

身体的な症状や病気の医学的治療効果がなかなか認められない場合心理的な要因や社会的な要因が関係している可能性があれば対処もしくは専門家に相談を行い総合的にアプローチしていくことが検討できます

心理的な影響や社会活動上の影響によって身体的な症状や病気を悪化させているものもあるかもしれないという視点ももっておくことで適切な相談につながるかもしれません。

すべて体だけが原因とは限りません。


心理的なアプローチを行っていてもなかなか改善されない場合適切な医療機関での検査や診察、社会的な要因に対しての支援などを検討していくことができます。

心理的な問題が実は身体的な病気の二次的な症状であったり、社会活動上の問題をなんとか対処しなくては改善が難しいケースがあることもあります。

すべて心だけが原因とは限りません。


学校や職場での社会的問題などは社会的サポートによって支援をお願いするだけでなく、必要に応じて適切な医療機関での検査や診察心理的なアプローチなども検討していくことができます。

すべて社会的な問題とは限りません。

生物-心理-社会モデルとレジリエンス


レジリエンス(英語:resilience)とは、弾性(しなやかさ)、回復力、抵抗力、復元力などを意味するものとして近年よく用いられる言葉です。

ストレスを跳ね返す力やストレス耐性などもレジリエンスという言葉で表現されることもあり、近年この能力が重要視されるようになってきています。

自分のからだ(生物・医学)を理解したり、体の特性に合わせた運動や栄養、休養などをとることにより生物モデルからレジリエンスを高めることができます。

自分の心を理解し、うまく付き合う方法を身につけることにより心理モデルからレジリエンスを高めることができます。

周囲の方と上手く付き合う方法や他者への理解、支援を求める力をつけることによって社会モデルからレジリエンスを高めることができます。

適切なアプローチを


専門家は連携や協同できる仕組みやネットワークをできるだけ形成することが大切です。

いま相談されている専門家がすべてこの総合的な視点を重視しているわけではないかもしれません。

そういった場合、自分自身で必要なアプローチを行うために必要な相談機関や専門家に相談していかなければなりません。

おわりに


上述したように生物的要因(医学的要因)、心理的要因、社会的要因がそれぞれ分離しているのではなく、相互に影響し合った複合的な問題が多くあります。

逆を言えば、この3つの方向全てからアプローチすることが求められるケースが多いということです。

自分の置き換えて考えてみてください。

①医学的な治療や支援は受けられているでしょうか?

②心理的な治療や支援は受けられているでしょうか?

③社会的な支援やサポートは受けられているでしょうか?

何か問題や悩み、病気や症状で困ったときに一つの方向だけで考えずこの3方向から考えて見ることが大切になります。

「生物-心理-社会モデル」を知ることにより、お役に立てて頂ければ幸いです。

■参考文献・参考サイト
公認心理師 現任者講習会テキスト 改訂版 日本心理研修センター監修

精神医学における生物・心理・社会モデルの今後の展望について 中前貴
生物・心理・社会モデルによるレジリエンスの理解と学校教育への適用 池田誠喜 芝 山 明 義 後 藤 正 彦

記事監修
公認心理師 白石

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