「心理的リアクタンス」という言葉はあまり馴染みがないかもしれませんが、「人に言われたらやろうと思っていたことをやりたくなくなった!!」という経験はしていると思います。
知っていると役に立つ心理学用語として「心理的リアクタンス」についてここでは説明していきます。
もくじ
心理的リアクタンスとは?
心理的リアクタンス理論(英語:theory of psychological reactance)とは、1966年にジャック・ブレーム(Jack Brehm)によって提唱された理論で、自分の行動や選択を自分で決めたいという人間本来の欲求が犯されると無意識的に抵抗的な反応が起きることをいいます。
誰かに決められたり、強要されるとなぜか抵抗したくなるのはこの働きがあるためです。
誰もが経験しているようなことで言えば「宿題しなさい」という言葉でしょうか。
「○○したらどうだろうか」といったアドバイスよりも「○○しなさい」という強制、強要に近いものほど、この心理的リアクタンスが働いてしまいます。
女性より男性の方が「心理的リアクタンス」を強く感じる調査結果もあるようです。
学術的には、個人が特定の自由(freedom)を侵害されたときに喚起される、自由回復を志向した動機的状態(motivational state)であると定義されています。
心理的リアクタンスで最も重要なポイントは、「自由の侵害」なのです。
自由の侵害の形として
①強制・強要する形で自由を侵害する
②好きになればなるほど自由を侵害する
③障害があればあるほど気持ちが高揚する
④禁止されればされるほど欲しくなる
などがあります。
①は上述しているとおり強制や強要をすることで心理的リアクタンスが起きるものですが、勝手な推測「あなたは○○だから」といったケースでも発現します。
②は束縛して嫌われるようなケースがわかりやすいと思います。好きになればなるほど余計なことをしてしまうものです。
③は親の目を盗んでの恋愛、駆け落ち、既婚者の不倫や浮気など恋愛関係などでよく起こります。
④はカリギュラ効果とも呼ばれますが、○○してはダメと言われれば言われるほど欲求が高まる働きです。
ピンク色のライオンを想像しちゃダメですよ!!
個人差があるのはなぜか?
会社で「こういう時は○○しなさい」と指摘された、という事例でみていきましょう。
Aさんは心理的リアクタンスが起きずに○○するようになった。
Bさんは心理的リアクタンスが生まれ、葛藤が起こり、○○しにくくなった。
この場合考えられることとして
Aさんは、
推測①指摘が妥当だと感じた
推測②仕事にはあまり自由がないものだという認識があった
推測③指摘した方に敵意がなく、信頼がおける認識があった
などのような認知や状態が推測されます。
Bさんは、
推測①指摘が妥当だと感じなかった
推測②仕事には自由が必要だという認識があった
推測③指摘した方に敵意があり、信頼がおけない認識があった
推測④指摘されることに反抗心、反発心をかかえやすい特性があった
などが考えられます。
このように妥当性、自由への認識、敵意と信頼、性格や特性などが関連するため心理的リアクタンスは個人によって異なります。
自由を大切にすればするほど心理的リアクタンスが起きる頻度や強度が高まるということです。
カウンセリングや心理療法での心理的リアクタンス
カウンセリングや心理療法を行う上でクライエントの心理的リアクタントを過度に刺激することはかえってその効果を減弱させてしまいます。
カウンセリングがクライエントの主体性や自主性を重んじるところはこのような理由があるところにも由来しています。
またカウンセリング内での取り組むテーマとして「心理的リアクタンス」に対するアプローチを行うこともあります。
上記のBさんのような特徴がある場合、生き難く、心理的な葛藤を生みやすくなります。
捉え方や考え方、信念などに対して変容のアプローチを行うことにより少しずつ変化が期待できます。
カウンセリングや心理療法では、自由を侵害されてもストレスを感じるレベルが低くなる、もしくは侵害されても適応的な行動が起こせるようになるようにアプローチを行います。
また子供さんや夫婦、親、会社の人間など相手が心理的リアクタンス反応を起こさせないようにしていくためのカウンセリングも行われます。
心理的リアクタンスの関連用語
ブーメラン効果
ブーメラン効果とは、相手を説得しようとすればするほど拒絶される働きのことをいいます。
物事の結果がブーメランの飛行軌道のようにその行為をした者自身に主に負の効果をもたらしてしまいます。
多くの場合、説得される側が説得する側を信用していない時に起こります。
ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーション(英語:gamification)は、ゲームのデザインやアプリ、学習商品、組織・チーム作りなどに用いられる手法です。
退屈なことや手間がかかることに対してゲーム要素を導入し、より楽しく取り込むように誘導したり、人々を没頭させるために以下のような要素が特徴的です。
- 明確なゴール、簡易な操作
- 難しいけど達成可能な目標
- 面白いストーリーテーリング(コンテンツ)
- 早いフィードバック(結果の可視化)
- 達成感と報酬を与える
- ソーシャルとの連携
カリギュラ効果
カリギュラ効果は、禁止することによりかえって求める気持ちが強化される心理的な働きを指します。
1980年に制作された「カリギュラ」という映画があまりに過激という理由で一部地域で公開禁止となり、かえって人々の注目を集めたという出来事に由来しています。
おわりに
「心理的リアクタンス」について説明していきましたが、いかがだったでしょうか?
自分が言われたら嫌なのについつい人に言ってしまうものです。
こういう働きがあるということを知った上で、言葉を変えていくことで周囲の方の主体性や自由を傷つけずに済み、動きやすくさせてあげることができます。
皆さんはどう活用されますか?
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」