心理療法は心理や精神に働きかけるものが多いですが、からだの動作を通して身体と心にアプローチが行えるのが「臨床動作法」です。

この記事では、心理療法では珍しいアプローチである「臨床動作法」について書いていきたいと思います。

臨床動作法とは何か?


臨床動作法とは、日本催眠医学心理学会を創設した成瀬悟策先生が考案した動作アプローチの心理療法です。

脳性麻痺による肢体不自由の改善から始まり、精神疾患の改善、表情や仕草、メンタルなどに変化を持たすことも報告され、今では知的障害者やASD(自閉症スペクトラム症)など発達障害、身体障害を持たれている方々にも応用されてきています。

また肩こりや腰痛の改善など一般の方々の症状の改善やスポーツ障害などでも用いられています。

成瀬先生は、「動作は、ある主たる目的のために必要なやり方で目的的にからだを動かす主体的な心理的な活動」と説明し、予期イメージを使った意図からからだが動いていくと考えました。

臨床動作法では、緊張した身体を動作法によってリラックスさせて、望ましい動作ができるようにしていきます。

余計な緊張を取ることで「自然な動作を獲得」すること、その動作を通しての気づきやコントロール感を得て「心理的な成長」をもたらします。

ただ緊張をリラックスするだけでなく、その余韻を味わうことも重要な点で、日本で創始された整体「操体法」とも相通じるところがあります。

自分自身でセルフ動作法を行うこともできれば、二人一組で協力して行う臨床動作法もあります。

7つの効果


臨床動作法には、

①自分の体を自分で動かしている実感がある(主体的動作感)
②コントロール感が得られる(動作統制感)
③体が緩む感覚が分かる・実感する(弛緩の実感)
④自分の体が動作を通じて実感として得る(自己存在感)
⑤からだとこころの安心感や安定感を得る(安心安定感)
⑥自分の動作を援助し、寄り添ってくれるものを実感する(動作協力感)
⑦自分のからだやこころに注意を向けて観察できる(活動モニタリング効果)

の7つの効果があると言われています。

人間のからだもこころも意識したところがマインドフルネスにあるように「今この瞬間」になります。

その瞬間は悩みや苦痛からフォーカスする先を変えることができます。

そして忘れていた緩みを再認識し、脳にインプットが行われ、適正な動作を脳神経系に教えることができます。

その流れを通じて上記のような効果を得ることができます。

人間は極端に物事を捉えてしまう性質を持ち合わせています。

リラックスや弛緩、脱力を行うことで、その忘れていた感覚を取り戻すことができます。

実際どんなことをするの?


ひとりでできる有名な方法としては「肩上げ法」があります。

  1. ゆっくりと3回深呼吸を行う(吐く息をできれば長く)
  2. 片方の肩をゆっくり上げて一番うえで無理のない範囲でキープする
  3. ゆっくりと肩を下げる
  4. 弛緩状態やその余韻を味わう

これがおおよその基本になります。

緊張している感覚と弛緩している感覚が知覚でき、それが脳にも学習として記憶されます。

弛緩状態を作るだけではなく、それを味わい知覚することで脳神経系の学習を行う側面も重要になります。

二人でやるときは、援助者が肩に圧を加えて弛緩する方法をとります。

腰や姿勢に対しての動作課題もあり、多種多様な課題が考えられてきています。

緊張させて弛緩させる方法として「漸進的筋弛緩法」も似ていますね。

臨床動作法は、1960年代に動作法としてスタートし、今では学会もあり、多種多様な応用などがあるためこの説明の限りではありません。

臨床動作法の治療としては、クライエントの主訴と視覚的な情報を基に不適切な緊張がないか、うまくいっていない動作がないかを確認していきます。

その見立てから適切な課題を提示し、実際に動作を行っていきます。

ここでは、臨床動作士資格や臨床動作法講師資格を持たれている愛知学院大学の吉川吉美先生のYOUTUBE動画をご紹介します。

臨床動作法の適用範囲


「臨床動作法と自己治癒力-主体性を活性化させる心理療法-(長谷川明弘、2008)」によると適用範囲は、

  • 脳性マヒ
  • 自閉性障害
  • 不登校
  • チック
  • 統合失調症
  • うつ
  • 神経症
  • 対人恐怖
  • 転換性障害
  • 痙性斜頸
  • 書痙
  • 自己臭
  • 認知症
  • 摂食障害
  • 教育現場
  • 災害被害に遭遇した高齢者
  • 脳卒中後遺症を持った高齢者
  • スポーツ選手の能力向上
  • 肩こりや腰痛

など教育領域、心理臨床領域、高齢者支援、健康促進、能力開発などに適用があると記載されています。

自律神経による効果を測る実験研究では、自律神経活動が活発になり、ストレスの対処能力の向上に寄与している可能性が示唆されました。

臨床動作療法の詳しい内容は、学会から出されている出版物やセミナー、療法家の先生方の著書などが参考になります。

参考文献

「臨床動作法と自己治癒力-主体性を活性化させる心理療法-(長谷川明弘、2008)」
​日本臨床動作学会ホームページ

記事監修
公認心理師 白石

「皆様のお役に立ちますように」

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