「なんでこんなに落ち込みやすいんだろう」
「なんであんなことをしてしまったんだろう」
「なんでいつもうまくいかないんだろう」
などのような思いが自然と湧いてくることがあります。
このような思考を繰り返し、苦しくなってしまうことがあります。
これを反芻(はんすう)といいます。
この反芻を正しく知ることにより、心が軽くなったり、影響の軽減や反芻の嵐を乗り越えることができます。
ここでは反芻について詳しく解説し、カウンセリングの有用性について説明していきます。
もくじ
反芻とは何か?
反芻(はんすう)とは、
[名](スル)
1 一度飲み下した食物を口の中に戻し、かみなおして再び飲み込むこと。
デジタル大辞泉(小学館)
2 繰り返し考え、よく味わうこと。「先生の言葉を反芻する」
を意味する言葉です。
心理学的に用いられる「反芻(英語:rumination)」は、今の状況や過去の出来事を何度も繰り返し考える思考や疑念を指します。
無意識的に沸き上がってくることが多く、湧き上がってきては意識的に思考し、さまざまな情報と関連付けを行い、その影響を増長してしまうことも少なくありません。
意識的に繰り返し考え続けることを「反芻思考」と言ったりします。
反芻は「抑うつ状態」と関連が深くあります。
抑うつ状態とは、気分が落ち込んだり憂鬱で、意欲が低下した状態のことを指します。一般的には、鬱々(うつうつ)とする、鬱っぽさなどを表す言葉です。
抑うつ的反芻(英語:depressive rumination)は、自分の抑うつ状態に陥った原因などに対して「なんでこうなったのだろう」と消極的に考え続けてしまうことです。
そのような状態が継続的に続くと抑うつ状態を慢性的に持続させ、悪化させることもあることが研究などから明らかになっています。
■自己注目の「省察」と「反芻」
自分に注意を向けている状態を「自己注目」といいますが、その自己注目には「省察」と「反芻」があります。
省察(せいさつ)とは、自分自身をかえりみて、その善し悪しを考えることを意味します。
ポジティブな内省や自己注目を「省察」、ネガティブな内省や自己注目を「反芻」と捉える考え方もあります。
反芻には、「考え込み型」と「気晴らし型」があります。
問題を解決・改善するための「考え込み」や気持ちの軽減を目的とした「気晴らし」であればいいのですが、問題を自分の至らないところへと結びつけ、自責することで必要以上に自分の価値を低下させ、自信を失い、抑うつ状態へと発展させてしまう反芻には注意が必要です。
建設的で肯定的(ポジティブ)な方向へ向かっていくための反芻であればいいのですが、破滅的で否定的(ネガティブ)な方向へ向かっていく反芻には注意が必要です。
なぜ反芻が起きるのか?
反芻についてその存在理由などははっきりまだ分かっていないことも多いですが、進化生物学と臨床経験から説明していきたいと思います。
進化生物学から考える「反芻」
Andrews Thompson(2009)による「熟考仮説」では、抑うつ状態になると同じことを何度も考える「反芻」が起こり、問題に集中し、熟考することができます。
問題解決を行うための熟考に「反芻」が必要だったのではないかという仮説です。
「抑うつ」について興味深い考察が生まれた進化生物学の研究としてsteavensとprice(1996)により提唱されたのがランク(地位)理論を紹介します。
抑うつとは、社会的地位(ランク)を失い、それを奪い返すことに自信を持てない時に生じる適応的反応であると考える理論です。
ランクを奪われた者が闘争や競争を繰り返すと、被害や損害は大きくなる可能性があり、適応度が減少するため「抑うつ状態」を示します。
この状態は、周囲に戦える状態ではないことを示すものでもあり、自分に相応しい地位に適応しようとするものでもあります。
この研究では、素直に負けを認めると抑うつが消えることが明らかになっています。
逆に負けを認められない場合、抑うつ症状がなかなか消えないこともわかっています。
抑うつ状態が改善されれば、反芻も改善されることも多く、「負けを認める強さ」を持つことが大切なのかもしれません。
臨床経験からの私説
物理的な反芻とは、「一度飲み下した食物を口の中に戻し、かみなおして再び飲み込むこと」です。
心理的な反芻も一度あった出来事を呼び起こし、再度捉え直しを行い、再び受け入れることを指しているのかもしれません。
否定的な反芻が湧いてくるときに多い状況が
・受け入れられないとき
・納得できないとき
・許せないとき
です。
抑うつ的反芻などの否定的な反芻は、
「なんでこうなったんだろう。。。」
「なんで自分はこんなに落ち込むんだろう。。。」
「こんなはずではなかったのに。。。」
「こんなの自分じゃない!!」
「あいつが悪いんだ」
などのように出来事や至ならない自分や他者を受け入れることができていない、納得できていないとき、許せないときによく表に出てきます。
そこには理想が現実化できなかった事実が多くあります。
そういうつもりではなかった、そういう予定ではなかったという見積もり違いがあります。
こういう反芻が繰り返し起きながら時間が進んでいく中で、受け入れや納得が進み、反芻や抑うつ状態が緩和されていきます。
逆にその出来事が許せず、受け入れも納得もできなければ、持続的な反芻と抑うつ状態に変化が見られず、かえって悪化することもあります。
このように否定的な反芻は、「許せない-納得できない-受け入れられない」気持ちの表れであると言えます。
このような状況は、精神的ショックを受けた時によく起こります。
精神的ショックを受けるということは、こころが傷つき、自分の持っている価値観や信念、誇りなどが揺らいだり、傷ついたりします。
こういう時は無理をせず、ゆっくりと自分を大切にしながら日々を過ごしていくことが大切です。
時間とともに精神的ショックによって傷ついた「こころの傷」を癒し、「許す-納得する-受け入れる」ことによってそのような状況を少しずつ乗り越えていくことができます。
その傷つきによって新たな価値観や信念、誇りが再構築され、それらを持って、また人生を歩んでいきます。
精神的ショックをうまく扱うことができれば自己成長になるのですが、時に卑屈になったり、被害者意識が強くなったり、回避・逃避傾向が強くなったりすることもあります。
前に進むことよりも過去の原因や後悔などに注目する場合には再度、反芻が起こりやすくなります。
ホスピスに入院している家族の死別を 1 ヶ月以内に経験した人を対象に反すうとソーシャルサポートとの関連を検討したところ,ソーシャルサポートを 多く受けている人は反すうが低く,抑うつも低いことが示された。また,反すうを行ないやすい人は社会的孤立や対人摩擦が高く,ソーシャルサポートを受けていないと報告することが多いことが示された。
ネガティブな経験の反すうとレジリエンス 及びソーシャルサポートとの関連
上記のように周囲のサポートが少なく「孤立・孤独状態」であると、一人で考える時間が増え、反芻も多くなってしまいます。
自分の中で処理したい気持ちは大切にしていいと思いますが、人に話す、相談する、理解されることもとても基本的で大切なことであることを理解する必要があります。
反芻に対するカウンセリング
今起きている反芻について詳しく知る必要があり、カウンセリングではその反芻を適切に評価していくことが大切です。
- どんな出来事があり
- どのように捉え
- どのように傷つき
- 現在はどのような状態か
を改めて明らかにした上で、
- どのような気持ちなのか?
- どのような反芻が出ているか?
- どのように対応しているか?
- どのような影響が自身に出ているか?
- どのような方向に向かっていくか?
について知っていく必要があります。
そういった状況がわかると、なぜその反芻が出ているのか?ということが理解できることが多いものです。
評価は、その理解をもとに行われます。
反芻から自動的に思考が生まれ、考えていくうちに「ほんとはこうではないか?」「もしかしたら。。。」と事実より広げて解釈してしまうことがあります。
事実に推測や妄想が結びつきやすくなってしまうということです。最初は推測や妄想だと認識していても思考を繰り返していくとそれらも事実であるように感じてしまい、いつのまにか浸透してしまうことがあります。
そういったところを整理して、みていく必要もあります。
反芻の全てが悪いものでもなく、一見、自分にとって悪影響を及ぼす反芻でも実は大切な気づきを与えてくれるものであったりもします。
反芻を用いて熟考することが功を奏す場合もあれば、不用意に反芻を注視して意識化しないほうがいい場合もあるため評価が大切になります。
意識化しないほうがいいといっても難しい場合が多く、そういった場合は気持ちの落とし所をさがしながらクライエントに最適な「物理的行動」を協同して計画を行い、進めていきます。
反芻は、認知的評価などの影響を受けるため、「認知の偏り」など反芻を強くしてしまう偏った捉え方や解釈がないか、みていく必要もあります。
しかしこの「認知の偏り」も「そういう風に思ってしまうもんだ」という建設的な認識を持ちながら、最適な形へと至ることが修正・変容していくことが大切です。
直面したくない問題や「許せない-納得できない-受け入れられない」気持ちに向き合っていく時は、慎重にクライエントの気持ちを大切にしながら直面化を進めていきます。
直面したくない気持ち、許せない気持ち、納得できない気持ち、受け入れられない気持ちにも理由があります。
その気持ちや理由を無視して進めるとうまくいかないこともあるため、そういった気持ちを理解しながら適切に進める必要があります。
最初は苦痛を伴うものですが、乗り越えたあとの爽快感や達成感、そしてなにより乗り越えた「成長した心」を持ってこれからの人生を歩めるという感覚は体験したことがない方にはわからない感覚です。
一見すると弱さを認めると、「より弱くなる」危険性を感じますが、実際はその期待を見事に裏切ってくれます。
■参考文献
反芻に対する肯定的信念と反芻・省察 高野 慶輔 丹野 義彦
ネガティブな反すう傾向と怒りの関連 横瀬 洋輔 武田 知也 境 泉洋
反すうが自動思考と抑うつに与える影響 西川大志 松永美希 古谷 嘉一郎
自己注目における省察及び反芻と自己効力感、自尊感情、抑うつ感との関連 関博美 兒玉憲一
記事監修
公認心理師 白石
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